第1章

3/8
前へ
/9ページ
次へ
あーと唸って強引に彼女を黙らせる。ツイッターやブログといったネットワークの世界は簡単に発言できる反面、気持ちや感情はなかなか伝わりにくいのだ。表情や仕草が見えず、ほとんどが文字だけでやりとりされる弊害で、かといって自分の住所やプロフィールなどを掲載しようものなら悪用されてしまう。だから、誰もがハンドルネームを使うが、エロ本などという本来であれば隠すべき趣味を公開するのは、同じくらいにマズい、なぜ、後輩が僕のエロ本の趣味を知っているかというと先日の節分のさい、僕の部屋を探索し、我が宝物達を発掘していったからである。エロ本というのは、その人の趣味、性癖が露骨に現れるためもっとも隠すべき物なのだ。なのに、この子に知られてしまったのはとても痛いと悔いるが、ひとまずそれはいい、それはいいのだけれど、もしも実名入りで公開された場合、僕の地位は転落するだろう。公開は阻止できなくても実名入りをなしにしても、今度は後輩ちゃんがエロ本を好む卑猥な女子になってしまう。 究極の選択だった。後輩の立場を守るか、僕の立場を守るかどっちを選ぶべきなんのか、あ、もう一つ選択肢があった。 「よし、じゃあ手ぶらについて教えよう」 「本当ですか、先輩」 「ああ。手ぶらってのはな、手をブラブラさせることだ」 「………………………………………………はぁ?」 長い長い沈黙のすえに後輩がため息をついて深々と頭を下げた。そこまで落ち込むことか? いや、意味は違ったけれども言葉だけなら似ている。 「ああ、ダメですね。先輩、私は先輩のことをダメで無知でアホな先輩だと思っていたんですが、自分の保身に走らず恥を平気でひけらかすその愚かさを好んでいたというのに、なんですか、手をブラブラさせることだって、死んでください」 無知をアホとバカでサンドイッチした挙げ句、遠まわしでもなんでもないストレートな罵倒がやってきた。あれ、これ、僕が悪いのか? いや、悪くない。そうだろ、そうだと信じてくれ。 「先輩、そういったつまらないボケはいらないんですよ。ここでは先輩の愚かさを隠す必要のないんですよ。ええ、で、もう一度、聞きます。手ぶらとはなんですか? もし、ふざけた質問をしようものなら顔写真つきでエロ本特集を組みますよ」  ほとんど脅迫に近い、ここで何も持たずに出かけることさ、ハハハとか笑ったらどうなるんだろうか、僕はとても心配だ。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加