第1章

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と言いながら彼女はことりと箱を取り出した。弁当箱くらいの大きさの箱からはコロコロと何かが転がる音がする。節分のやり残し? なにかあったかと小首を傾げるが、僕は思い出せない。というか、節分の行事に詳しくないのだ。 「ちなみに恵方巻きをまるまる一本、口に咥えて食べきるまで絶対に喋らないあれではありません。先輩は海苔巻きと言いましたが、あれは恵方巻きです」 「すんません」 後輩の真面目な態度に思わず謝ってしまう。態度が怖いんだよ。なんなの、僕はこれからどうなるんだと身構えていると、 「でも、恵方巻きを咥えて喋れない私に背後からいろいろイタズラしてしまう 妄想は夜の布団でしてくださいね」 ニッコリ笑顔で言われたので、 「素敵な笑顔、ありがとうね。エロカワイイ後輩よっ!!」 とだけ答えておいた。 「冗談です。本気にしないでくださいね。背後からそっと近寄って、ほら、これが手ぶらなんだぜってレクチャーしなくてもいいですよ」 「しないよ。早くその、箱の中身を見せてくれ」 「せっかちな人ですね。まったく」 と言いながら、後輩は弁当箱を開いた。 「………………………なにこれ?」 「豆です」 「うん、それはわかるけど、なんで、豆?」 「節分では巻いた豆を年齢のぶんだけ食べるんですよ。この前、掃除したやつを洗ってきました」 「努力は認めるけれど、やり残したことって、これ?」 「はい、豆を食べましょう。私も食べます。食べないと先輩がヌーディズムに目覚めたとツイッターで呟きます」 「やめて、本気でやめて、通報される。食べる、食べるから」 と言いながら豆をボリボリ食べ始める。 「今度はもっと甘いやつをあげますよ」 「ん? なんか言ったか?」 「いえいえ、それよりも先輩、豆を小皿に移す勝負しませんか、お箸はここに用意してあります」 「準備がいいね」 真面目な話も、卑猥な話も、くだらない話も雑談の前では流れていく。放課後の教室に僕らの歓声はいつまでも響くのであった。後輩の言ったもっと甘いやつとはなんなのか、疑問は残ったが、まずは目の前の勝負である。 「ちなみに負けたほうは、罰ゲームです」
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