ファン・ラン

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 とはいっても、それは奥の手。  バレンタインでは真優を連れ回したからね。  そう、温泉以外にも展望台に。あの宿屋から出た先に夜景が売りのバーがあるんだ。真優がカクテルならどこでもって話していたから先に見付けておいた。  真優は、ジャンパーを気にしていたみたいだけど俺は気にならなかったな。  あの日の夜は人生でも思い出に残るような一日だったよ。  真優も俺も次の日は仕事だったから、朝は、七時に宿を出て、朝方もらったチョコレートはおやつになったけれど、もったいなくて食べることができなかった。  そんなわけで、今日は真優の口から「何処でもいい」って聞くまでは内緒にしておこう。  営業をやって長いけど押し付けるのは苦手だ。  相手がその気になるまで、待つのが俺流なんだろう。急いだって関係が深まるわけでもない。ゆっくり口説いて成功させるのが好きなんだ。  失敗しても要は楽しく。  真優から何処かに行きたいメールがくると、何処かってドコだとか考える先に、マラソンしか浮かばないのは笑い話だ。  人から見ればつまらないカップルなのだろうけれども。俺は案外幸せだったりするんだよ。  ドリンクコーナーでの一瞬で俺も真優のことが離れなくなっていた。もう、運命なんだって馬鹿みたいに思っている。照れ臭いから口にはしないけどさ。
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