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「いや、ここでいい」
「じゃ、オレ真ん中行ってもいい? 押し潰されて埋もれるかなー?」
「止めておけ」
自らあの人混みに埋もれたいなんて、気が知れない。
本当にバカだな、コイツは。
電車が揺れる度に背後のサラリーマンのカバンが背中に当たるのに辟易しながら乗っていると、先刻まであんなに騒がしかった山本がやたらと大人しくなっている。
ん? 何だ?
「ねー、やっくん」
「何だ」
「さっきからオレのお尻をサワサワしてる人が居るんだよねー」
「……サワサワ?」
しばらく何の事かと考えてやっと気付く。
痴漢か。
珍しくしおらしい山本がポールを握り締めたまま堪えるように眉間に皺を寄せていて。
仕方ないから助けてやるかと手を伸ばし掛けた時、山本がハッとしたように顔を上げた。
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