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「コレってさ、間違ってますよって教えた方が良くない? だってオレ男だし!」
コイツは本当にバカだな。
相手が痴女だったら間違いでも何でもないだろうに。
本当に、バカで放っておけない。
「余計な事をするな。犯罪を増長させるだけだ」
周りを見てもスーツを着たサラリーマンばかりで、女性の姿はない。
当然だろう、この満員電車に女性が放り込まれれば真っ先に痴漢の標的になる。
女性は女性専用車両で伸び伸びしている筈だ。
「やっくん? どうし……ぅわっ!」
山本の首根っこを掴み、無言で自分の元へ引き寄せる。
このすし詰め状態の車両の中じゃ大して移動は出来ないが、山本の顔を自分の胸元に押し付けると、どうやら痴漢の手は離れたらしい。
「え、何? どうしたの?」
「お前は黙ってろ」
「あ、もしかして人混みに酔った?」
俺の胸にグリグリと顔を埋め、山本が懸命に手を伸ばして俺の背中を撫でる。
いつだってコイツは自分よりも他人が優先なんだ。
痴漢の手が離れた事より、俺の心配なんかして。
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