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山本は何故か俺に懐いている。
一年の時に声を掛けられたが、その度に無視した。
何度無視しても話し掛けてくるもんだから、『しつこい』と一蹴したのに。
『やっと返事してくれた』なんてニコニコするもんだから、毒気を抜かれてしまったのだ。
クルクルと表情が変わるコイツは、見ていて飽きない。
コイツの馬鹿さ加減に呆れて蹴りを入れた時はもう俺に関わらなくなると思っていたが、根性はあるのかそれからもチョロチョロと俺の周りをうろついていて。
いつの間にか、コイツを好きになった。
何でコイツなんだ、なんて最初は思ったがな。
理由は簡単だ、コイツは俺に無い物を沢山持っている。
人懐っこさも、協調性も、周りまで明るくするような笑顔も。
自分の事には鈍感でお人好しなのも俺とは正反対。
だから俺はコイツが欲しいんだ。
お前は解ってないんだろうな。
そんなお前が俺だけじゃなく、周りの奴等も煽っている事なんて。
しばらくすると電車が目的の駅に着き、サラリーマン達がドアから流れ出る。
その流れに乗って電車を降り、山本の手を捕まえたまま素早く改札を抜けて駅のトイレに駆け込んだ。
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