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十分後。
俺は、あの男と一緒に保健室にいた。
「大丈夫か?」
男が俺の顔を覗き込んで来る。
「……大丈夫っす……」
力なく答えると、あのつり気味だった目が三日月のように弧を描き笑顔になる。
さすがに意識は吹っ飛ばなかった。
けれど、念のためと強引に保健室へ連れて来られた俺は、何故かこの男の看病を受けている。
保健の先生はどこ行った?
いないってどういう事っすか?
職務怠慢じゃねーの?
「ほんまごめんな。汗でボールが滑ってもーて……痛かったやろ」
「…………ぁ、関西弁」
そこで初めて、このイントネーションの違いをハッキリと確認する。
そうか。
関西弁か。
間近で聞いたの、初めてだ。
ボンヤリとそんな事を考えていると、男はまたニコリと微笑んだ。
「珍しい?一年の時に大阪から引っ越して来たんよ。今は二年、三輪陽太(みわ ようた)や」
「あ……神部ヒロっす。その、大丈夫ですから、練習戻って下さい」
先輩だと分かり、ますます居心地が悪くなる。
もう頭も痛くないし、出来ればさっさと帰って欲しい。
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