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「道さん」
「あれ、君はネットカフェの……信くんだっけ」
名前、覚えてくれたんだ。なんか今日は怖いくらいいいことがあるな。
「ぴー太くんと公園ですか」
「うん。休みの時くらいしか、ぴー太とゆっくりできないからね」
休みの日の道は髪型もラフにふわっとしていて、いつもより若く見えた。これでお父さんなんてかっこよすぎでしょ。
ぴー太の保育園では先生やママたちのアイドルなんじゃないだろうか。なんてことを考えてしまう。
ぴー太は、同じくらいの歳の女の子と砂場で一生懸命何かを作っていて、道はそれを少し離れたベンチから見ていた。目が優しい。
週明けまで会えないと思っていたのに、こんな姿を見ることができるなんて。
「信くんは、どうしたの?」
「ああっ、俺はバイト上がりだったんですけど、母親に買い物を頼まれて……。それをちょっとつまみ食いしてから帰ろうかと。そうそう、道さん嫌いじゃなければこれ、いかがですか?」
ありえないくらいの量を買ったので、やわらかいシフォンケーキがつぶれないように店の人が袋を二つに分けてくれた、そのひとつを道に渡した。
「シフォンケーキか。ありがとう。でもこんなに?」
「いや、俺んち今三人しかいないのに親父は甘いもの食べないから、実質二人分なんです。それなのについ沢山買っちゃって。だから食べてください。あ……もしかして甘いもの苦手、ですか?」
「ううん。好きだよ、ぴー太も喜ぶと思う。でもうちはぴー太と二人だからこんなにはいらないよ」
二人暮らし? 聞き間違えじゃないよな。適当にシフォンケーキを見繕って袋に入れながら道の言葉を反芻する。
ということは道さんはシングルファーザーなのか。
夜型人間とはいえ、徹夜明けのどんよりした俺の脳みそは混乱してしまった。
道が聞いているのか聞いていないのかもわからないまま、このシフォンケーキは国産の小麦粉を使っているとか、厳選した産地の卵を使っているからぴー太にも安心して食べさせられるだのとまくしたてた。
道は少し微笑みながらそれを黙って聞いてくれている。
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