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事務所に入ると実習生の名札を付けた若い女性がうつむいて立っていた。
園長は周りを確認してからドアを閉めると開口一番に言った。
「申し訳ありませんでした。お迎えについてのお電話は頂いていたそうです。電話が鳴ったとき事務所に誰もおらず、たまたま通りかかった実習生のこの子が電話をとったそうです。それで……」
園長先生は言いにくそうに続けた。
「以前からこの実習生はその……道ノ下さんに恋愛感情を抱いていて何度か声をかけたそうなんですが、全く相手にされないので頭にきていて、今回のような嫌がらせをしてしまったということです。誠に申し訳ありませんでした」
うつむいていた実習生も消え入りそうな声ですみませんでした。と続けて頭を下げた。
驚いた。実習生とはいえ保育士になろうとしている子がそんなことをするなんて本当にありえない。
道も驚いていたが、思い当たる節もあるのか複雑な表情をしていた。
「私としましては、今回のことをどこまでこの子の学校へ報告するかまだ図りかねていますが、とにかく当園に実習に来るのは本日で最後にしてもらうつもりです」
当然だ。人のことながら俺は憤慨していた。
その横でただ淡々と話を聞いて「わかりました」と言っただけで話を終わらせた道を歯痒く感じていた。
その後ぴー太を引き取った帰り道、先ほどからぼんやりしている道に声をかけた。
「なんか……大変でしたね。大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だよ。こんなことに巻き込んで悪かった」
「俺のことはいいですよ。それより本当に大丈夫ですか?」
「いや、ただ今日限り実習にこさせないと聞いて、そこまでしなくてもと少し思ってしまって」
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