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「何言ってるんですか、道さん」
「あの子はまだ実習生だろ。これからってときに実習に行った園から途中で戻るというのはなにかしらの問題になるだろうし」
自転車の後ろにいるぴー太に聞かれたくないのだろう、道は声を絞ってそう言った。
俺はというとあまり怒りっぽいほうではないのに、先ほどからいらいらもやもやしていたものがついにはじけてしまった。
「これからっていう大事なときに取り返しのつかないことをしたのは彼女自身ですよ。実習中に保護者にちょっかいだすことだってありえないのに、その上思い通りにいかないからって嫌がらせをするなんて」
声を絞りつつも一気にまくし立てた俺を見て道は唖然としていた。
「俺は子供を育てたことはないですが、そんな人に自分の子供を預けたいとは思いませんよ。仮にこのまま実習を続けたとして、道さんに向いていたベクトルがなにかの拍子にぴー太に向かったらどうするんですか?」
ここまで言ってしまってなんだが、さすがに感情的に言いすぎたとへこんだ。
すると道がぽつりと話し始めた。
以前の保育園でも同じクラスのママが原因で同じようなトラブルがあったこと。
女性関係者が多い保育園の中で男性である自分が分が悪くて結局ぴー太を転園させたこと。
ぴー太は今の園に慣れるまでは随分かかったそうで、自分が悪いわけではなかったけど結果的にぴー太に大変な思いをさせてしまったことを後悔していたこと。
「……俺、出すぎたことを言ってしまってすみませんでした」
「いや、俺がどうかしてた。信くんに言われてはっとしたよ。園長先生が毅然とした態度で判断してくれて本当によかった」
なんか大人な道に素直にこんなことを言われて面食らってしまった。照れくさいのを隠したくて慌てて話題を逸らす。
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