報われなくても

8/8
前へ
/109ページ
次へ
 道はこちらが恐縮するくらい丁寧に何度も母親にお礼を言った。続いて出かけようとする俺の腕を母親が引っ張る。 「ぴー太くんのお父さん、ものすごいイケメンさんじゃない。背も高くてほんとにかっこいいわねえ。お母さん緊張しちゃったわよ。あれじゃあ、ママさん達が放っておかないだろうね」  今日の出来事はもちろん知らないのだが、結構鋭いことを言ってくる。おかんセンサーって侮れないよな。  そんなことを思いながら外に出て道達と合流する。 「今日はホントに助かったよ。なんかいつも信くんには助けられてるな」 「いえ、自分がしたかっただけですから気にしないでください」 「そういえばこれ……」  自転車に座らせた途端、眠ってしまったぴー太の服を指差した。 「あ、あっ、ごめんなさい。俺の子供の頃の服なんですけど、ぴー太を風呂に入れた後、母親が着せたいってきかなくて……古いモンなんで帰ったらすぐ着替えさせて捨てちゃってください」 「やっぱり信くんのなんだね。そうかなとは思ったけど、あまりにキレイなんで驚いたよ。ぴー太のこと、風呂も入れてくれたのか。眠っちゃったら起こすのが大変だから入れてもらえて助かったよ」 「母親はぴー太が来て、ものすごい喜んじゃって大変だったんですよ。またいつでも連れてきてください。じゃ、俺こっちなんで。おやすみなさい」 「バイト頑張って。いってらっしゃい」  道達と別れてバイト先へ向かう途中、夜空を見上げた。  思いは遂げられなかったけれど、こんな風にいつまでもいられたら幸せだなと思っていた。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

413人が本棚に入れています
本棚に追加