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ということで三日後、俺は野中一押しの美容院に来た。
「いらっしゃいませ。野中くん」
「こんにちは。俺はいつも通りでお願いします。えっとこちらが、俺のバイト先の先輩で木山さん。くせ毛でセット決まらないって悩んでるんで、お願いします」
オーナーはいかにも渋いって感じのロマンスグレーで、正直野中のチャラくならない絶妙な爽やかヘアを作り出しているイメージがつかない。
「木山さん、荻です。宜しくお願いします」
「よ、宜しくお願いします」
「まず、どんなスタイルにしたいですか?」
「どんなっていうか、あんまりこだわりとかビジョンがなくて……あっ、でも今より少し短めで、あとはスーツを着ても違和感のない髪型がいいです」
「わかりました。くせがやっぱりあるみたいだから、シャンプー後一旦乾かしてドライカットでいきますね。大きな変化をつける時には確認させて頂くという形で進めてもいいですか?」
「はい、宜しくお願いします」
それからの荻さんは鮮やかな手さばきであっという間に俺の髪型を仕上げてくれた。
できばえは素晴らし過ぎて、大げさではなく本当に自分じゃないみたいだった。
「信さん、めっちゃカッコいいです」
「大人の男性に言ったら失礼になっちゃうのかもしれませんが、木山さんのお顔立ちは瞳が丸く大きいのでかわいらしさがあるのでで、その良さは生かしながらもシャープな印象になるように仕上げました。きっと、スーツもとてもよく似合いますよ」
「すごいです。ほんと、ありがとうございました」
続けて野中もカットを終え、店を出てからもガラスやミラーに自分が映る度くすぐったい気持ちになった。でもカットひとつでこんなに気分が変わるなんて、スタイリストってすごいんだな。
「野中、俺来てよかったよ。ありがとう」
「よろこんでくれて、良かったです。そういえば、信さんスーツ着るんですか?」
「まあ、今すぐって訳じゃないけどいつかはちゃんと就職しなきゃって思ってて」
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