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道のアパートに着くとそおっと鍵を差込み、音がしないようにドアをあけた。
奥の部屋はオレンジの光がすこし見える。そっと戸を引くと、布団の中にぴー太が寝ていた。
苦しそうな表情ではなかったから、少し安心する。しかしぴー太のおでこを触ると、冷却シートの上からでも熱を帯びているのがわかった。
「お父さん?」
「信だよ。ごめんね。起こしちゃったね」
「しんくん?」
「うん……お父さんがお仕事から帰ってくるまで、俺がぴー太のところにいるからね。お水飲む?」
「うん」
少し水を飲んだぴー太はまたうとうとし始めたけど、俺のTシャツのすそをつかんでこっちを見ていた。
「大丈夫だよ。お父さんが来るまでは俺がここにいるからね。ぴー太は安心して寝るんだよ」
「うん……」
今度は素直に目を閉じた。でもぴー太の手はすそを握ったままだったから寝息が聞こえてくるまでは多少不自然な格好のままぴー太に寄り添っていた。
ぴー太が寝てしまえば何かすることがあるわけじゃない。足音を立てないようにしてキッチンに行き、買ってきたコーヒーとナゲットをつまんで、ちょっとうがいをしてからぴー太の横に戻った。
横には畳んだ布団とタオルケットがある。さすがに道の布団を敷いて使うほど神経は図太くなかったけど、ぴー太のために弱めにエアコンが入っている部屋は少し肌寒かったので、タオルケットだけ借りて横になった。
タオルケットに包まると自分じゃない香りがふわっとしてきて落ち着かなくなった。
道に抱きしめられたら、こんな感じなのだろうか。
風邪をひいた子供の横でこんな不埒なことを考えてることや、あきらめようと思ってるのに道の顔を見に行くことをやめられないこととか、考え始めるとまた涙が止まらなくなってきた。ぴー太を起こしたら大変なので声を殺して泣き続けた。
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