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――カチャ。
ドアが開く音で目が覚めた。携帯を見ると五時半過ぎ。あのまま泣きながら眠っちゃったようだ。
早朝とはいえ夏の朝は結構明るくて目が沁みる。道が帰ってきたので目をこすりながら慌てて上半身を起こした。
「おかえりなさい」
「ただいま。ごめん、起こしちゃって。昨日はありがとう」
「いや、何もしてないですから」
道がぴー太の様子を伺う。熱もだいぶ引いているようで道は安堵の表情を浮かべていた。
そんな道の様子に魅入っていると視線がこちらに移される。
タオルケットに包まったままの自分の姿を思い出し勝手に借りていたことを慌てて詫びた。道はゆっくり首を左右に振ったが、その後も俺を見つめたままだった。
見たことのない道の表情に戸惑っていると俺の目元を指の背でそっと触れてきた。そしてその長い指先が頬に触れるとすぐ我に返ったように手を引いて目を逸らした。
目が腫れているのがバレてしまっただろうか。気のせいかと思うくらい短く触れられたことよりもそちらの方が気になった。
手早くタオルケットを畳み、布団の上に置くとぴー太の様子を簡単に報告してから帰り支度をした。
道の顔を見れなくてうつむいたまま挨拶をした。
「……じゃあ、失礼します」
「本当にありがとう。今度お礼させてくれ」
「そんなのいいですよ。お大事にして下さい」
家に着いて、ベッドに横になると道の姿が浮かんだ。
あの時、腫れた目を見られるのが嫌でそちらに気を取られていたが、ほんの少しだったけど道は確かに俺に触れた。
気持ちに応えることができないならなぜあんなことをしたんだろう。道に対して少しだけ怒りを覚えた。
俺が好きだってわかっていてあんなことをしたならその真意はなんだろう。考えても答えが出ず、そのままずるずると眠気に引き摺られていった。
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