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俺の額から手を引っ込めた道はだまったまま怒ったように前を見ている。するとドアを開けて助手席から降り立った。「どこへ行くの、道さん」俺は声にならない言葉を心の中で叫んでいた。
道はそのまま遠ざかるわけではなく、車の後ろを回って運転席のドアに近づいた。
「変わるから、降りろ」
さっとドアを開けると俺の身体に少しかぶさるように近づきシートベルトをはずした。胸がドキドキする。そして頭を車から出すと俺に手を差し出した。
熱は俺が意識した瞬間から猛威を振るっていて緩慢な動きしかできない。俺はおずおずと手を伸ばした。
道は伸ばした手を掴むと、残りの左手でさりげなく腰をささえて車から出してくれた。そのまま俺の腕を肩にかかえて支えると、助手席の方へ連れて行く。そしてシートを少し倒し、シートベルトをかけてくれる。動悸はすごいことになっていた。
運転席に戻るとゆっくり車を発進させて道が言った。
「ぴー太の風邪がうつったんだろう。申し訳ない」
「そんなの自分で言い出したことだし大丈夫です。あやまらないでください」
「いやでもやっぱり、すまない」
「……道さん、運転かなり慣れてますね」
「前は、現場仕事だったからな。いろいろなところを走ってた」
そうか、だからほっそりして見える割には節っぽいというかゴツさもあるんだな。俺の体調が悪いせいか心なしか口調も優しい。
もっと道のことを知りたかったけど、口を開くのすら億劫なのでだまっていた。
「お前、目を閉じて休んでいろよ。熱のせいで涙目になってるぞ」
「熱のせいなんかじゃない」心の中でつぶやいて目を閉じた。
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