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――どれくらいこうしてたか。
そんなに長い時間じゃないだろう。気付くと外の景色はよく知っている場所になっていた。
予定はもちろん中止になってしまった。
少し顔を傾けて道の横顔を盗み見る。切れ長の目はまっすぐ前を向き、俺が隣にいることなんか忘れているような突き放した目線に見える。
横顔も綺麗だな。自分が男を綺麗と思うときが来るなんて思ってもみなかった。
この綺麗な横顔はこちらを向いて微笑むことなんて絶対ないとわかっているから苦しい。あきらめられない気持ちは自分の心の中だけに秘めていればいいって割り切ったはずだけど、こんなに近くに愛しい人がいる状況ではどうしようもなく心がざわめく。
いっそ、恋人でもいてくれたらいいのに。道さんに好きな人がいるなら周りをうろちょろしたりしないし、もう会わない。
「うち、この辺だよな」
住宅地に入ってから、公園の脇に車をそっとつけると道が聞いてきた。簡単にうちまでの道順を説明すると、うなずいてギアを入れようとする。
「どうした?」
「えっ」
道の視線は俺の右手に向かっていた。自分でも気付かないうちに道の腕をつかんでいた。走り出さないでといわんばかりに。
そうか……自分の心より体のほうが素直だな。もう、どうなってもよかった。
「俺、やっぱり道さんのことが好きです。あきらめられません。ほんと、ごめんなさい」
「信くん、でも」
「わかってます。そういうと道さんが困るのは。道さんを困らせたくないからあきらめようって何度も思ったけど、やっぱり無理でした……多分俺はこれからも道さんのこと、ずっと好きでいると思う。受け入れてくれなんて言わない。俺のこと嫌いでも、忘れてもいいから、それだけは、許してくれませんか」
気持ちを抑えるのも涙も、もう堪えることができなかった。道のことを困らせたくないのに。
――不意にぐわっと体に重みを感じた。目の前がふさがって、そして苦しい。
「えっ?」
俺今抱きしめられてるの、か? 頭は道の胸にすっぽり入り込んでいる。信じられない状況なのに体はだるさが最高潮で反応することもできない。
それより道の腕の力が結構強くて、意外と逞しいんだななんて、ぼーっと考えてる。あれ、道さん震えてる?
「なんで……」
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