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「そうだ、俺だよ。信、怖かったね。怪我してない?」
そういって道が手を差し伸べてくる。
その手を取った瞬間に俺は緊張の糸が切れて子供のようにわんわん泣いてしまった。
道は俺の涙で肩がびっしょり濡れてしまってもしがみついて俺が離れないので、俺をかばい続けるようにいつまでも抱きしめてくれていた。
後で道に聞くと、騒ぎを聞きつけて俺がどうしてるか心配になり、いてもたってもいられなくなって店に入るとまさに俺がそのジャンキーに切りつけられようかという瞬間だったらしい。
寸でのところで野中がジャンキーに飛びかかり、あっという間に捕まえたそうだ。野中も怪我をしなかったと聞いて安心した。
怪我人がいないとはいえ、店は一応現場になったので本日の営業は中止になった。
警察は俺からも事情聴取をしたいということだったが、襲われた当人でショックを受けているだろうということと、店に入ってすぐのことだった為、ジャンキーが迷い込んで来た辺りの事情はまったくわかっていないということでいくつかの簡単な質問で解放された。
この後警察には店長と野中が行ったそうだ。俺は道に付き添われタクシーを待っていた。
「本当に一緒に行かなくて大丈夫か?」
「だいぶ落ち着いてきたし、うちに帰るだけだから大丈夫です。道さん仕事の途中だったのにごめん」
「お前が謝ることじゃない。悪いのはあのジャンキーなんだから」
タクシーが来ても道は心配そうにしていたけれど、精一杯の明るい顔をして俺はタクシーに乗り込んだ。
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