413人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
営業再開二日目。
「信さん、おはようございます」
野中がやってきた。
「おはよう。野中、この間は助けてくれて本当にありがとう」
休み中落ち着いてから一応電話はかけていたけど、やっぱり直接お礼が言いたかった。
「そんなお礼をいわれるようなことじゃないですよ。あの時はただ夢中になって足が動いちゃっただけですから。もう大丈夫ですか?」
「うん。野中も怪我をしなくて本当によかったよ。ありがとう」
いつまでもこのやりとりが続きそうな感じに、なんとなくお互い笑ってしまい、とりあえず店内に入った。
興味本位の客は今日も何組か来ていて店員をつかまえてはいろいろ聞き出そうとしていた。不快な気持ちを振り切るようにしばらく夢中で掃除をしていると、店内で大きな声がした。
「てっめー、ふざけんな!」
驚いて走っていくと、あの野中が客に向かって怒鳴っていた。
「刃物を向けられた人がどれだけ怖かったのか、考えられないのかよ!」
野中の怒りが炸裂している。王子様の豹変振りに店内はしんと静まりかえった。すぐに店長が来た。
「お客様、店員が失礼をいたしました……でも怪我はしなくても傷ついている者がいるということをご配慮していただけませんでしょうか」
そういって店長は頭を下げた。野中にふざけた質問をしたであろう客は、周りの野次馬が自分に非難の目を浴びせてることに耐えられなくなったのか、逃げるようにその場を去り、そして退店していった。
◇◇◇
「しんー、お兄ちゃんが待ってるから早く帰りなよー」
俺と入れ替わりシフトの広田が出勤するなり、からかう。
「うるせー、じゃあお先に」
道は復帰一日目から帰りに俺を送ってくれている。俺は大丈夫だといったらまた怒られた。
本当は送り迎えをしたいそうだが、ぴー太との生活サイクル上、俺の入りの時間に合わせることが不可能なので帰りのみということになった。
俺が上がる時間になると出入り口で待っている道の姿はもう風物詩になっているようで、店の連中は道に会うと普通に挨拶するようになっていた。このお迎えは恐ろしいことに俺の二十四時上がりの縛りが解除される二ヵ月後まで続いたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!