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「俺はね、道さんが信を渡せないって野中に言ってくれたことがうれしかった」
そっと、道の胸に頭を預けた。背中に手が伸びて、引き寄せてくれる道の手がうれしい。
「もうそれだけでいいんだ。俺が道さんをどうしようもなく好きで、道さんも俺のことどうしようもなく好きだって思ってくれたら、それだけでいいです」
「信……」
名前を呼ばれると縋りつきたくなる。縋りついて離れがたくなる。いつも、そうだ。
「道さんのニオイがする。キスして……」
やさしく唇が重なる。道が覆いかぶさってきて額に軽く唇をつけた。そのまま瞼から鼻、唇まで這わせてくる。
「信、目を開けて」
目の前に道の顔。やさしく微笑んでいる瞳は潤んで吸い込まれそう。
「信、愛してる……」
再び唇をふさがれた。道から与えられたやさしく包み込むようなキスは、欲望が揺さぶられるような官能的なキスとは違うのに心をつかまれたようで苦しい。
甘い呼吸困難に足掻いていると、キスだけでふわっと浮くように体が反応した。道がふっと微笑む。もっと、もっと道のものになりたい。道が欲しい。離さないで、ドロドロにふたりが溶けてしまえばいい。
めくるめく時間が過ぎて道に抱きしめられたままうとうとしてしまったらしい。目を覚ましても隣には道がいる。俺の大好きな切れ長の黒い瞳が閉じられていても、無防備な姿を見せてくれていることがこの上なく愛おしい。
軽く寝息を立てて眠っている道の存在を確かめるように胸に顔を埋めた。道のニオイが心地いい。さらに頭を埋めるように近寄ると、腕をまわして抱きしめられた。
「うーん……し、ん」
無意識で抱き寄せたのか? 意外な道の反応にくすくす笑ってしまう。朝まではこうしていられるね。でも……。
――ずっと、一緒にいたい。心からそう思った。
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