413人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
無我夢中で仕事を覚えていく中、田中さんと俺の歓送迎会を開いてくれることになった。
近くの居酒屋の座敷個室にメンバーが集まる。社長をはじめ、工場長の古内さん、デザイナーの斉田さん、事務のさっちゃん、それから田中さんと俺。隣県にある工場で働くパートさんを除いたらこれで全社員集合になる。
乾杯の挨拶で社長が挨拶を始めた。
「田中、お疲れ。ホントによくやってくれて感謝してる。木山よく来たな。頑張れよ。以上。今日は飲むぞ!カンパーイ」
やっぱり変わってると思うけど、この短い間でも少し社長の人柄はわかってきたつもりだ。それは面接を受けたときに感じた印象と変わらず、むしろ知るたびにこの人のすごさを感じる。
「木山お疲れ。どうだ慣れてきたか?」
「社長、お疲れ様です。まだまだですが頑張ります」
「今日は無礼講だからさ、特別に2つだけ何でも質問に答えてやる。めったにない機会だから言ってみろ」
そんなこと急に言われても、困るんですけど。でも社長がこういうときにすぐに対応しない奴が嫌いなのは短い付き合いでもよくわかってるのでとりあえず口を開く。
「あの、社名の由来ですけど……やっぱり」
「そうだよ俺の名前が天道だから、てんとう虫からとりましたー。はいひとつ終了。」
ですよねー。あとは……やっぱり気になってるから聞いてしまおう。
「お、俺を採用したのは何故ですか?」
「ん? 気になる?」
「はい。結構応募があったと伺いましたので、フリーター上がりの俺が何故残ったのかなと気になりました」
社長はぐーっとビールをあおると、俺の方に体を向けてきた。瞳にはいたずらっぽい光が宿っている。
「そうだね、木山。それはお前の限りない没個性。これにつきるね」
「な……なんかひどい言われような気がするんですが」
「違うよ。お前くらいの年齢で仕事ができるなんて誰も期待しちゃいない。でも案外自己主張ばっかりご立派っていう若い奴が多いんだよ。入ってすぐに田中と同じレベルで仕事が出来るなら主張でも何でもしてくれって思うけど、無理だろ?」
社長は軽く冗談のように話しているが、確かにそうだと思った。この人は本質をこんな風に軽く話したりするからいつも聞き逃せない。
最初のコメントを投稿しよう!