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それからも夢中で仕事をした。手探りの中で、主に化粧品と容器の勉強をしながらだったから、帰りが遅くなることもしばしばで終電に揺られながら、自分もついにサラリーマンになったのだなと変に感心したりもした。
そんな生活にも少しずつ慣れていった。
「今大丈夫ですか?」
「めずらしいね、こんな時間に信が電話をしてくるなんて」
「今からちょっと道さんのうちに行ってもいいですか?遅いから無理だったらいいんだけど」
「今からか……」
「できれば今がいいです」
「いいよ。おいで」
ある日、少しだけ早く仕事をあがれた日、帰りがてら道に電話をかけた。
コンビニを辞めたといっても平日の道は仕事とまだまだ手のかかるぴー太との生活で忙しいから、本当は週末にするつもりだった。でもこれを手に入れたらいてもたってもいられなくなった。
自転車を飛ばし、10分足らずで道のアパートに着く。時間も時間なのでインターフォンを押そうかどうか躊躇していると、内側からドアがそっと開いた。
「道さん。遅くにごめんね」
「寒いから中に入れ」
「ぴー太は寝てる?」
「うん」
そういって道は俺を招き入れると、テーブルに座るようにと目線だけ動かす。コーヒーを淹れてくれるみたいだ。
いわれるまま腰を下ろし、道の動作に目をぼんやり見る。はやる気持ちを抑えられずに夢中で自転車を漕いで来て、これからすることを考えてると子供みたいに昂っていたさっきの自分と今のギャップにちょっとおかしくなった。
「急に笑って、どうした?」
「うん、何でもない。道さんパジャマじゃないんですね」
「さっき電話をもらった後に着替えた」
「全然よかったのに」
「そんなことはいい。信、話があって来たんだろう?」
「実は、渡したいものがあっていてもたってもいられなくなって来ました」
そういって俺はポケットから出した小さな箱を差し出す。
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