受け取って

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「鍵?」  箱を開けた道が不思議そうな顔をした。中身はシンプルな革ストラップのキーホルダーをつけた鍵。  道が持つことを想像してそれを選んだ。 「そう。今日部屋を契約したんです……そこの鍵」  狙っていた部屋を仮契約していて、今日仕事がわりと早く終わった為、滑り込みで不動産会社に入って契約を済ませた。 「……家を出るなんて聞いてなかった」 「準備はずっと進めてたんだけど、驚かせたくて黙ってました」  道は手の平の上に乗せた鍵を見つめたまま黙っている。大切なことを勝手に決めたってやっぱり怒ってるかな?  でも俺の決心をわかって欲しい。鍵ごと道の手を握り締める。 「道さん……俺、一生懸命住む部屋を探した、道さんの為に早く一人前になりたくて。アパートはそんなに広いところは借りられなかったけど、道さんがくつろげるようにしておくから。場所はここからすごく近くなんだよ。だからいつでも来て欲しい。俺がいてもいなくても、寝てても起きてても、何してるときでも道さんが来たいって思ってくれたらいつでも勝手に来て欲しい。道さんの二番目のうちにして欲しいんだ」  道がこちらを見ている。その顔の表情を読み取ることはできなくて、静かに黙っているだけだからだんだん不安になってくる。  ふと道がくすくす笑った。 「えっ、えっ?」 「ごめん……でも表情が次々変わるからいろんなことぐるぐる考えてるんだろうなと思ったらかわいくなっちゃって」 「ひどいですよ!」 「うれしいよ、ありがとう」  ふわっと抱きしめられた。ムッとしたくせに反射的に顔を埋めてしまう。  それから長い長いキスをされた。甘い感触に後頭部が痺れてきた頃、道がようやく唇を離す。 「お前の百面相見るまでは、ちょっと泣きそうだった……」 「道さん……」 「信、お前がいてくれて……ありがとう」  道の低くて甘い声は俺の胸の奥にストンと落ちる、道の匂いを纏ってどこまでも落ちて行きたくなった。 「道さん、愛してます」  ――やっと、言えた。
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