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土曜日の朝、ぴー太とともに道を見送る。
「おとうさん、いってらっしゃーい」
「ぴー太、信くんの言うことをよく聞いていい子にするんだよ」
「はーい」
今日は土曜日で本当は道も休みのはずなんだけど、会社の若手の子を予定外の現場に出さなくてはいけなくなったそうだ。
昨日の今日では現場要員を確保できず、急遽道が借り出されることになったのだ。
いつもと違う作業着姿の道は本当にかっこよくて見惚れた。だからこの上なく幸せな気持ちで道を見送るはずだったんだけど。
道をピックアップしに来た社長を見て驚いた。若いじゃないか。道さんと同じくらいか? ムキムキ一歩手前の絶妙なガタイの良さで、日焼けした肌はワイルドで男らしいけれど、よく見れば顔は正統派のイケメンだった。背は道さんより少し低そうだけれど、あくまで道さんと比べてってことで、平均的には長身の部類にはいるだろう。
社長って言うからなんとなく頭が禿げ上がってでっぷりしたおじさんを想像してたけど、そういや道さんの所の社長は自ら現場を走り回っているって言ってたもんな。
「こいけしゃーん。おはよう」
「おおっ、ぴー太おはよう。また大きくなったなー」
軽々とぴー太を抱き上げ、頬ずりしている。
「こいけしゃん、いたいよー」
「ははっ、ごめんごめん」
ぴー太もうれしそうだ。
道はこの人と一緒に現場仕事をこなしていたんだ。並んでいる二人をみて、当たり前だけど社長と道の間のことをほとんど知らない俺は疎外感を感じて少し苦しくなった。
「信、うちの社長の小池」
「は、はじめまして。木山信です」
「小池です。ナリから話は聞いているよ。信くん、せっかくのお休みのところ悪かったね」
「いえ……全然大丈夫です」
「じゃあ、信。悪いけど頼んだぞ」
「はい。いってらっしゃい」
「おとうさん、いってらっしゃーい」
本当は安心して言ってきてとか、気の利いたことを言いたかったけど、これだけ言うので精一杯だった。
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