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次の日はどんよりとした最悪の気分で目が覚めた。昨日なんであんなつまらない嘘をついてしまったんだろう。
わかりもしないことで勝手に不安になって八つ当たりみたいにして出て行った。気になることは聞いてみれば済むことなのにそれも出来なくてうじうじしている自分が心底嫌になった。
うちにいるのも嫌で目的もなく街に出た。仕事の参考の為にバラエティショップやドラッグストアで化粧品を見たりしたが、いつもと違って何を見ても目に入ってこなくてすぐにやめた。
それから映画館に入り特に観たくもない映画を観た。気分転換にと出かけてみてもすべてが味気なくてつまらなかった。
夕方になりどんよりした気分のまま部屋に戻ると中で人の気配がした。
心臓がトクンと鳴る。ここに入れる人は俺以外にひとりしか、いない。
震える手でドアを開けると道が台所に立っていた。道も少し驚いている。
「仕事じゃなかったのか?」
目の前にいる人が今一番会いたかった人なのか、一番会いたくなかった人なのかわからない。こんなに拗ねてしまった自分を持て余す。
道は食事を作ってくれているようだった。問いかけに答えない俺にそれ以上はなにも言わず、黙々と手を動かして葱を刻んで鍋に入れた。味噌汁のよい匂いがする。朝から何も食べていない腹には厳しい匂いだ。
テーブルの上には皿に盛り付けた豆腐ハンバーグに、保存容器に入った色鮮やかなにんじんとピーマンのきんぴらと、唐辛子が多めのレンコンの煮物がならんでいた。
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