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「信、忙しくてろくなもん食ってないだろうから、遅く帰ってもいいように消化のいいものを作ってたんだ。きんぴらと煮物はうちで作ってから持ってきたんだけどね。日持ちするから何日か食べれるぞ。豆腐ハンバーグは好きか?」
こくっとうなずくのが精一杯だった。なんか胸がいっぱいだ。なのにお腹の虫がなって道がくすくす笑う。
「腹減ってたんだ。へんな時間だけど出来上がってるからすぐ食べられるし、食うか?」
違う、そうじゃないよ。いやお腹もすいてるけど今一番餓えているのは道にだ。
道が足りない。たまらなくなって抱きついた。
「ちょ、信……泣いてるのか? あのさ昨日から信、生理前の女の子みたいに不安定で……戸惑ってるんだけど。そろそろ話してくれない?」
この人の前で泣くのは何度目だろう。道を前にすると俺は本当に女みたいだ。俺はしゃくりあげながらもなんとか話を始めた。
小池のことが気になってもやもやしていたこと。八つ当たりのように仕事だと嘘をついてしまったこと。
長い時間悩んでいはずなのに言葉で説明すると一瞬で終わってしまう。
「それで、信は俺と小池に何かあるんじゃないかって妬いてくれたわけね」
「……うん」
「小池とは長い付き合いだけど、そういうんではないよ」
「でっ、でも小池さんは道さんのこと好きですよね? 俺と同じ目をしてるからわかります」
もうやめたいのにたたみかけるように不安を口にしてしまう。
「わからない……もしかしたらそうなのかもしれないけど、あいつは何も言わない。だからそれだけだよ」
でもいつか小池の気持ちが爆発したら、どうなるんだろう。道をとられてしまうんだろうか。
今現在ないことでまだ不安に駆らている自分が本当に馬鹿らしいけど止めることができない。
なんであれ小池が道にとって仕事上大切な人であることには変わりないのに。いつまでもこんなことを思ってたら道に嫌われるに決まってる。
「信はなんでそんなに不安になるの? 俺のことが信じられない?」
慌てて首を振る。
「俺はさ、お前しかいらないんだよ」
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