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仕事を終えてうちに着くとすぐ、インターフォンが鳴る。その姿をみて驚き、ドアを開けた。
「もしかして、裕太?」
「はい……こんばんは」
数年ぶりに会った裕太は背なんか俺よりずっと大きくなって、男らしくなっていた。椅子を勧めて、お茶を準備する。
少しうつむいている横顔は道とよく似た面差しで、やはり親子なのだなと思う。
「久しぶりだね。そういえば大学合格おめでとう」
「ありがとうございます。今日は、信さんにお願いがあって来ました」
なんかすぐ本題ってところも、道さんと似ているな。
「何? お願いって」
「俺大学は遠方で一人暮らしするんです。もちろん父さんにばっかり負担をかけられないからバイトもします。だから俺のほうは心配ないんです」
「なんか裕太ってやっぱり偉いね」
ちょっと照れたりすると小さい頃の面影があるな。
「でも俺がうちを出て行ったら父さんのことが心配なんです。信さん、父さんと一緒に住んでください」
「えっ?」
「父さんは俺の為には頑張れる人だけど、自分の為に何かするのは慣れていないから」
「そうじゃなくて、なんで俺と一緒に住めって言うの?」
「だって信さんは父さんの恋人なんでしょう?」
「知って……たのか?」
裕太はいたって涼しい顔だ。
「随分前から知ってますよ。ちゃんと確認するのは今日が初めてですけど」
「……そっか――裕太って大きくなってもぴー太のままなんだな」
「馬鹿にしてんの? 信さん」
「ごめん、言い方が悪いよね。俺の大好きなぴー太のままなんだなって思ったらうれしくて。でも子供なんだから物分りよすぎなくてもいいんだよ。俺たちのこと知っていたなら文句のひとつでも言ってくれればよかったのに」
「……」
「俺は道さんのこと大切に思ってる。でも、もし裕太に嫌がられた時はいつでも身を退く覚悟をしていたよ。今もそれは変わらない」
道にも話したことはないけれど、道と付き合うことになってから俺なりの決心でずっと考えていることだ。他の人には絶対譲れないが、裕太を悲しませてまで続ける付き合いなんてないと思っている。
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