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「……父さんと信さんのことがなんとなくわかって驚いたし、今でもすべて受け入れられてるとは思わない。でも嫌だと思ってたわけじゃない。俺のことを抜きにしたら、父さんが幸せそうに生きていけるのは信さんがいるからだってわかってるから」
「裕太……」
「だから、父さんと一緒に住んであげてください」
「わかった……そうさせてください」
裕太はもう子供じゃない、大人なんだ。その裕太に対して誠実に返事ができてるだろうか。
「ありがとうございます。うちに帰ったら父さんにも話します」
道と出会って随分長い月日が経った。よく考えたら知られていないというほうが不自然なのかもしれない。裕太が問いただしてこなかったのをいいことに、俺達は気付かないふりをしていたのだろう。
初めて借りたアパートから何度か引越しをした。新しい鍵を手に入れる度に、いつも悩んで選んだキーホルダーをつけて道に渡してきた。道には言ったことがないけれど毎回プロポーズする気持ちで渡してきた。
今度は一緒に住む部屋を探すことができるなんて、道を好きになった十三年前にここまでの幸せは思い描いていなかった。
幸せな未来に思いを馳せていると、インターフォンが鳴った。誰が鳴らしたのかはもうわかっている。
俺は愛しい人を迎え入れるために急いでドアを開けた。
END
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