魔法の手

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「手。出して」 「い、いいよ、自分でやる」 「不器用なくせに何言ってんの」 ほら、と強めに促せば、おずおずと差し出される手。 先生の見立て通り、そんなに酷くはなさそうだ。内心ほっとしながら指定された軟膏を塗り、絆創膏を貼っていく。 「今日の内容はブラウニー、だっけ?」 場に沈黙が満ちるのが嫌で、話題を振った。 バレンタインを直前に控えた、家庭科の授業。ウチの学校の妙な伝統で、その日の調理室は男子禁制の一室と化す。因みにその時間、男子は別室でレポート作成だ。一ヶ月後は、その逆。 「うん、そう。くるみの入ったやつ」 嵐は去ったと思ったのか、佐々木は弾んだ声を上げる。毎回痛い思いしてんのに懲りないな。 「使った直後の天板が熱いなんて判りきってるだろ。何で触ったりしたんだよ」 じろりと睨んでついまたお説教をしてしまう。女の子がしょっちゅう傷を作ってるなんて、あんまり褒められた事じゃない。
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