魔法の手

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一度は上向いた顔が、再びしおしおと俯いていく。 「こ、焦げそうになって、慌てちゃったの。熱さにびっくりして手を引いたら、ブラウニー、天板ごと落ちちゃっ……て」 一一ぽつり。 膝を揃えたチェックのスカートにひとつ、雫が落ちた。 「こんなんじゃ、もう渡せない……」 一度降り出した涙はあっという間に土砂降りになって、濃い染みを作っていく。 「ごめん、キツい言い方した」 佐々木に好きなヤツが居た事へのショックとか、その相手は一体誰なんだとか、心の中で渦巻くこちら側の事情は全部向こうにうっちゃって、セミロングの頭に手を伸ばし、そっと撫でる。 出来れば、こんなシチュエーションじゃなく、触れたかったけれど。 佐々木の涙が少し落ち着くのを待って、ズボンの右ポケットからスマホを出す。メール作成画面を呼び出すと、素早く文章を組み立てて送信。相手からの返答を待った。 数分後、賑やかに着信を知らせた画面をタップして、電話に出る。
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