9人が本棚に入れています
本棚に追加
「いえ。結局私たちは、始まってもいなかったんです」
「そうかもしれませんね」
マスターは、そう言って微笑んでくれる。
この人が認めてくれるなら、今日の私は何も間違っていなかったと。そう思えたら、これも失恋なのに悲しい気持ちは少しも無かった。
付き合ってる間には何度か泣いたけど、今はスッキリした気分で笑顔になれた。
マスターの言葉は、私に笑顔をくれる。
晴れてフリーの身となって、こうしてマスターと向き合って話している。それで、何かの心境の変化があるかと思っていた。
例えば、急激に恋心が増すとか。
だけどこれと言って、特別な心の変化は感じられなかった。
今までとは、何も変わらないマスターへの思いと、与えられる癒しと安らぎも同じまま。
ただ、この前のマスターに抱き締められた感触が、背中と肩にじんわりと蘇ってくる。
それで、安心しつつドキドキした。
最初のコメントを投稿しよう!