続き

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  「いえ。結局私たちは、始まってもいなかったんです」 「そうかもしれませんね」  マスターは、そう言って微笑んでくれる。  この人が認めてくれるなら、今日の私は何も間違っていなかったと。そう思えたら、これも失恋なのに悲しい気持ちは少しも無かった。  付き合ってる間には何度か泣いたけど、今はスッキリした気分で笑顔になれた。  マスターの言葉は、私に笑顔をくれる。  晴れてフリーの身となって、こうしてマスターと向き合って話している。それで、何かの心境の変化があるかと思っていた。  例えば、急激に恋心が増すとか。  だけどこれと言って、特別な心の変化は感じられなかった。  今までとは、何も変わらないマスターへの思いと、与えられる癒しと安らぎも同じまま。  ただ、この前のマスターに抱き締められた感触が、背中と肩にじんわりと蘇ってくる。  それで、安心しつつドキドキした。
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