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そして放課後。
5時に近くなる時間帯になると、すれ違っていく人の数や帰宅途中の車の台数も増えていく。
時折、大きなクラクションが鳴ったり、昼間よりも忙しそうに色を変える信号は、都会が夕日に包み込まれるのを感じる。
田舎者は、こんな光景をそうそう見られるものじゃないから、物珍しくて仕方ない。
そういえば、中学の先生がこんなことを言っていたような・・・
『都会に出たら上を見上げるなよ』
『なんでですか?』
『田舎もんってバレるから』
私たちの町には高校はなく、中学を卒業すると同時に都会の高校へ進学する人や、進学先の寮に入る人が少なくなかった。
私と春輝も、その一人。
「世良さんのこと、大事にしろよ」
「えぇっ!!!」
周りの都会の景色を満喫していた時に、ボソッと放たれた春輝のその言葉に、私は驚きを隠せなかった。
いつもは「んー」とか「へー」とか、曖昧な相づちしか打たないのに。
歩いている時にこんなことを言ってくるなんて、珍しいこともあるものだ。
「昼休みの話、聞こえてた?」
「うーん、まぁ」
「そっか」
「うん」
「大事にな」
「分かってる」
他人に興味がなさそうに見えて、意外ときちんと見てくれている優しさも、昔から変わっていない。
太陽に照らされた様にぽかぽかと温かくて、ビー玉みたいに透明な優しさが、きっと優梨愛のもとに届きますように。
*****
電車に揺られること二十分。
私たちの降りる駅が近づいてきた。
少しずつ、景色が変わっていく。
ビルが建ち並び、排気ガスの臭いがする都会の景色から、田んぼや野原が広がる田舎の景色へと早変わり。
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