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・・・あ、この匂い・・・
誰かの匂いに似てる。良い匂い。
爽やかだけど、少しだけ、甘い。
「・・・奈緒、奈緒」
頭が揺れているのは、私の体が右側から揺さぶられているからだと分かった。
あれ、この声・・・
さっき、聞いたような・・・
「春輝・・・?」
「おはよ」
おはよ? なぜ、今?
「私、寝てた?」
ハッとした。
「パンツ見えてた」
「え!?」
「あははははっ」
「もー! からかわないの!」
右手で作ったグーは、弱々しく春輝の胸へ飛び込んだ。
「ごめんごめん」
いつもと変わらないようでいて、でもどこか気まずそうな笑顔を向けた春輝は、いつもに増して優しかった。
「アイス・・・」
「いいよ」
「アイスくれたら、許す・・・」
「お安い御用」
それから、春輝のおごりでアイスを食べ、またこの駅に戻ってきた。
少しだけラッシュは収まっていて、電車に乗るにはちょうどいい時間帯。
「ねえ、あの・・・」
「ん?」
「さっきの、さ・・・好きな人がいるっていうのはさ・・・・・・」
やっぱり、気になる。
聞いたら自分が傷つくかもしれないのは、百も承知。
分かってるけど、怖いけど。自分で聞きたい。
「奈緒には言えない」
「・・・
そ、そうだよね!自分の好きな人なんて知られたら、恥ずかしいよね・・・」
知ったら知ったで、衝撃が大きいんだろうけど、「言えない」って言われちゃったら、もう何も聞けないんだよね。
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