Page.1*日課

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ローファーを履き終え左側へ方向転換すると、歩いて一分もかからないうちに大きな一軒家の前に着いた。 『宇都宮』と彫られた黒の表札を掲げたその家は、いつ見ても綺麗で、ここら辺では存在感が大きい。 家が建って結構経つみたいだけど、今でも時々、新築なんじゃないかと思う時がある。 そもそも、ポーチがあるオシャレな家はこの辺では見かけないから、初めて見たときはしばらくそこを離れなかった。 完璧なのは外見だけでなく、その家の世帯主一家も、家族そろっていい人たち。 <ピンポーン> ・・・うう、寒い・・・ 一瞬だけ強く吹いてきた風に顔をしかめ、体を半分に折り曲げて歩き出す。 これじゃ、よぼよぼのおばあちゃんだよ・・・ そして、ふと、ボタンを押した指を見てみると、真っ赤になって今にもはち切れてしまいそうなくらいパンパンに張っている。 雪にも負けないくらいの白い吐息で何とか暖めようとするも、やるだけ無駄。 こんなときは、ストーブで暖めるのが一番手っ取り早い。 「奈緒ちゃん、おはよう」 「おはよう!」 この柔らかい雰囲気の人は、幼なじみのお母さんで、私は、紗恵子(さえこ)おばさんと呼んでいる。 家が隣同士ということもあって、小さい頃からお世話になっているから、昔からお母さんとも仲が良い。 「寒かったでしょ?暖まっていきなさい」 「ありがとう」 おばさんは私を家の中へと促した。 四月と言えども、ここは北の大地・北海道。 朝の気温が五度を下回るのは、当たり前のこと。 だから、もう慣れっこなんだけど・・・ 部屋の中はストーブが利いていて、遠い世界のことのように思えてくる。 冷え込んでいた体も、徐々に血液循環を良くして、手足を温め始めた。
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