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「今日体調悪い?」
「そんなことはないけど・・・」
とは言ったものの、春輝は信じてくれず、私の顔をむにむにし始めた。
澄んだ黒みがかった瞳が、そうするのを無邪気に楽しんでいる。
「やめほよ~」
「ぶっさいく」
「なんだほー!」
「あははははっ」
誰のせいでこんな顔になってると思ってんのよ~
すっかり笑いものにされて、怒る気にもなれなかった。
「ちょっと二人とも何してるの、急がないと電車行っちゃうわよ」
そんな私たちを背に、おばさんは洗い物をしながら告げた。
心臓が、ビクンと跳ね上がる。
だって、ここは・・・
田舎を走る路線が次々と廃線になっている今、私たちには、三十分に一本くらいのペースの電車しか足がない。
乗り過ごすわけにはいかない。
入学祝にもらった腕時計を見ると、針は7時40分を指していた。
「春輝、時間!」
その言葉で、目が覚めたよう。
私が来て五分も経たないうちに、春輝は朝食を食べ終えて、支度を始めた。
早食いなところも全く変わっていなくて、いい加減注意する気がなくなってきた。
「行ってきますっ!」
「ほら、奈緒行くぞ!」
外に出るや否や、春輝は私の手を引いて走り出した。
まるで、ダチョウにでも乗っているかのような速さで。
*****
「間もなく、○○行、○○行が出発いたします」
駅に着くなり、構内に女性のアナウンスが流れた。
それでも、私たちは構わず走る。
田舎だけあって、この駅を利用する人はほとんどいないので、走ったところで注意する人もいないし、すっからかんの構内では人にぶつかりもしない。
最終的に、困るのは電車に乗り遅れた私たちだけってこと。
「急ぐぞ!」
「これ以上速くなったら転んじゃうってば!」
<プルルル・・・>
外から、電車の出発する音が聞こえてくる。
「はぁ・・・はぁ――――」
持っていた鞄と体を、ドサッと席に投げ出す。
普通にいていたらほっこりと感じる車内の暖房が、じんわりと額に汗を浮かばせる。
・・・疲れた
さっきので、一日の体力を使い果たした気分。
一方、春輝はというと・・・
「ふぅ」
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