第1章

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「ん?何?」 智樹さんはあたしの視線に気がつき、不思議そうに聞いた。 「あ、ううん。智樹さん、怪我したのはどっちの足?無理しないでね。痛くなったら、言ってね」 あたしがそう言うと、智樹さんは「ああ」と思い当たったようで、笑った。 「学校でなんか聞いてきたね。平気だよ。両足ともなんともない。あのときの怪我はたいしたことはなくて、もうすっかり完治さ。サッカーだってできるよ」 智樹さんはにんまりして、両足を動かして見せた。 「え?でも、怪我のせいでプロを断念したんでしょ?」 「うーん、あのときはそうでも言わないと、クラブチームの人が引いてくれなかったんだよ。 サッカーは優勝したから満足したんだ。やれるだけのことはやったから。それに、職業としてサッカーを長く続けられるほどの才能は俺にはないよ。そんな甘い世界じゃない。 俺は正気道会の跡取りだからね。サッカーも、正気道会の仕事も片手間にできるものじゃないから、高校を卒業したら、正気道会一本にするって決めていたんだ。今は大学もあるから、まだ制約があるけどね」 それから照れくさそうな笑顔を見せた。 「反抗していたときもあるけど、今では俺、親父のこと尊敬しているんだ。親父のような家元になって、この正気道会を守っていきたい。書庫の本を見ただろ?あれだけの長い歴史を積み重ねてきたんだ。『気』の道を絶やさず、その道を追求していくというのは、とてもやりがいのある重要な仕事だと今では心から思っているよ」 智樹さんは目をキラキラさせてそう語ってくれた。 自分の道をちゃんと見つけている、素敵な目だった。 ああ、あたしはそれを支えていってあげたい。家元の奥様のように、妻として、智樹さんをずっとサポートしていきたい。 あたしは、強くそう思った。
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