第1章

5/11
前へ
/11ページ
次へ
あたしは、智樹さんが『気』を使って守ってくれたときのことを思い出した。 手を触れていないのに、『気』の力が人を押しのける。9歳の子がそれをよくわからずに使ったら……どんなに恐く感じるだろう。 どんなに、恐く……。 そう思ったとたん、急に身震いがした。 恐い……。そう、とても恐いことだ……。 あたしはなぜか、その恐怖が自分のことのように身近に感じられ、思わず両手で自分の腕を押さえた。 「ん?寒い?ちょっと冷房強すぎたかな?俺、どうにも暑がりでね」 大山さんは立ちあがって事務机に行くとリモコンを探し始めた。 「いえ……大丈夫です。なんでも、ないです」 あたしは笑顔を作って大山さんの背中に言ったけど、なぜかひきつってしまう。 なんで、体が震えるんだろう。 何が恐いんだろう。 あたしは自分でもよくわからず、戸惑った。 そのとき、隣に座っている智樹さんが、あたしの肩に手をまわして引き寄せてくれた。 後から考えるとすごく照れくさいことだけど、そのときのあたしは、すっと恐怖が引いて心が落ち着いていくのを感じた。 温かい智樹さんの手のぬくもりが体中を駆け巡る気がした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加