第1章

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智樹さんはボールを膝のまわりで一周まわしてから、少年にパスをした。 「ボールの芯になる真ん中を蹴るんだ。足首は固定させろよ」 「うん!」 すっかり智樹さんに魅了された少年は、素直に練習を再開させた。今度ははつらつとしている。 あたしはベンチに座りその様子を眺めた。 智樹さんは、生き生きとした少年にアドバイスをしている。きっといいお父さんになるんだろうなと思った。 ということは、現在妻であるあたしがお母さん! 顔をほてらせながら、ふーと息を吐いた。 いまだにこの状況に実感が湧かない。 いつかそんな日がくるんだろうか。 幸せすぎると、その状況を楽しむよりも、いつか来るかもしれない不幸を恐れてびくびくしてしまう。 あたしは頭を振って智樹さんを見た。 そして、智樹さんとずっと一緒にいたいと思った。 「いやったぁ!」 少年は歓声を上げた。最高記録、5回を達成したのだ。 「ようし、よくやった。その調子でやれば、どんどん上手くなるぞ」 智樹さんは少年の頭に手をおいて、髪の毛をくしゃっとした。 「うん!」 少年は首をすくめながら、うれしそうにうなずいた。 「お兄ちゃん、どこに住んでるの?また教えてくれる?」
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