第1章:俺の殴りたい田中はこの中に一人いる

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何か下から悲鳴みたいなものと罵声が聞こえたけど、 闇鍋パンを失ったショックのためどうでもよくなった。 嗚呼、俺の苦労と努力と一カ月分の小遣いが… …………それにしても今日の俺は不幸すぎる。 寝坊して遅刻はするわ、 世界史の授業で使った地図の束を先生に押し付けられて 階段で落して転がって転がっていくわ、 喉の渇きを潤そうと思って水道の蛇口にてをかけたら 間違えて隣のホースがついた蛇口をひねって 周りがビチョビチョになったり…… その他もろもろ… 本当に今日はついてないな そういえば、俺が不幸を起こすたびに 悲鳴と罵声が聞こえるような気が… うん、まあ。 気のせいか。 俺は机に突っ伏し、自分の不幸さを呪っていると 頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。 「トコロテン。幻の闇鍋パンのお味、どうだった?」 ……トコロテンじゃねえよ。トコロだよ。 俺は顔を上げる気力がなかったため、 突っ伏したまま答えた。 「………食べてねえよ」 「…はっ?」 俺の返事にあかぬけた返しをするのわ友人、 青柳 千歳(アオヤナギ チトセ)。 成績は中よりの上。 運動神経は抜群。 顔は甘いイケメンのフェイスを被り神々しい。 気さくで話しやすく、さらにイケメンなので、 男女ともに人気である千歳は我が友人である。 こんな凡人な俺には勿体ない男である彼は、 誰が言おうとも俺の長い付き合いである友人だ。 そんな彼はてっきり、俺がすでに闇鍋パンを腹の中に 収めたのだと思っているようだ。 事実、俺の手にはパンの包装紙が握られているしな。 「…え、食べてないって?どうゆうこと? 食べたんじゃないの?」 「それは……」 俺は先ほどあった悲劇を愚痴るように千歳に言った。 さらに、連続で身に起こる不幸を全部語った。 千歳はしょげながら話す俺の目の前でヒイヒイ言いながら 爆笑していた。 千歳を見ながら俺はふと思った。 人の不幸は蜜の味って言うけど、 本当なんだな、と。 腹をおって笑う友人を殴りたいという衝動があったけど、 それを抑え込んで殴らなかった俺は偉いと思う。 誰か褒めて。 授業は千歳が爆笑したまま始まり、 先生に「大丈夫か!?」と心配されていた。
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