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『ぶらり電車の旅一日コース(家に帰るまでが遠足です)パート1』も終わりに近づいてきた。
あとは家に帰るだけ。
駅は一緒でも、西口と東口で改札出てからふたまたに分かれてるから、歩き出す方向から違う。
今日は癒しのサクちゃんがいなくてちょっと寂しかった。
片側サムイ。
てゆーかソワソワしてなんだか落ち着かない一日だった。
楽しかったけれど、少しだけ窮屈だった。
それはきっと、ヒロトのせい。
『ぶらり電車の旅一日コース(家に帰るまでが遠足です)パート1』に、集中してなかったヒロトのせい。
絶対ほかのこと考えてた。
あたしが景色に喚声あげても、おいしいねって言っても、一拍あとから返事が来たし。
テンション低いし。
サクちゃんなら、きっと同じテンションで付き合ってくれたのにな。
だから寂しかった。
それから、ちょっとドキドキした。
その理由はもうわかってる。
だけど、誰にも明かすつもりはない。
予備校時代からずっと、ずっと隠し持ってきたんだもん。
ずっとずっと、当たり前に隣にいたいから。
その日常が消えちゃうのはイヤだ。
親友のサクちゃんは、あたしの腐思考を裏切らない気持ちを抱えて苦しんでる。
頑張ってるの、エライと思う。
それに比べてあたしはダメな子。
逃げてる。
でも、最初から友達である相手の位置を違えることは、すごくコワイ。
だからあたしは、目をつぶる。
「じゃ、サラバ友よ。またパート2計画するね。今度はサクちゃんも連行しようねー」
サクちゃんがうまくいったら、チカちゃんも誘いたいけど。
そうしたら、あたしまたギャラリーからの視線が痛くてたまらなくなるな。
なんてことを考えながら、バイバイと手を振って去ろうとしたら。
「待って」
思いがけずその手をつかまれたから、心臓がずっきゅんて鳴って半分はみ出した、絶対。
振り返って見上げたヒロトの背中で、今夜は星が割り増しで瞬いている。
「万奈。話がある」
あれ、ヒロトの目のなかにも星がキラキラしてる。
すごくキレイ。
ユラユラ揺らいでる。
そんなキラキラを眼鏡の奥に隠してたなんて、知らなかった。
「なあに?」
呑気に尋ねた次の瞬間、必死に保っていた均衡を、あたしは失うことになる。
「好きだ。万奈」
……嘘。
サクちゃん。
助けて。
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