図書室調書

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 あたしたちは興奮している。異様に興奮している。  だって初めて見た。ドラマじゃないキスシーンなんて初めて。しかもあれ、隣のクラスの男子たち。顔も名前も知ってる、背の低いほうなんて1年の時同じクラスだった。それよりなにより、男の子どうしってあれありなの? 事故なの? 故意なの?  手を取り合ってバタバタ走り去ったあたしたちは、とりあえず持ち場の図書室に滑り込み、パシャリと扉を閉めた。 「あー、まだドキドキしてる」 「ほんと。びっくりした」  ハアハア息をつきながら目を合わせると、どちらからともなく笑いがもれた。緊張がとけた気の抜けた笑いから、次第にバカ笑いへと変わっていく。ギチギチの緊張から、バリバリの興奮へシフト。 「やだ、なにやってんのあいつら。あれ外じゃないの?」 「そうよね、見られちゃうよね?」 「現にわたしら見ちゃったじゃんね?」 「ほんとよねぇやだぁ」 「ドラマの撮影かっての」 「男の子どうしでねぇ」 「そうよ、どっちも男子だったの見間違いじゃないよね?」 「ナイナイ、男子男子。制服でモロバレだもの」 「だよねえ、やだぁ」  卒業式の1週間前、自由登校での奉仕活動。まだ試験が残ってたりするバタバタな子達と、やる気のない子達を差し引いたぶんの3年生が自主的に集まって、3人以内のひと組になり場所を分担。そしてひたすら清掃修理。あたしたちは寒いのは嫌だから、早々図書室をゲットした。  キスシーン目撃事件は、本の修繕用テープを切らしたあたしたちが、補充分を手に職員室から戻ってくる、その僅かな間に起きた出来事。  ひととおり言葉を吐き出したら、興奮は急速に落ち着いてきた。気づけば彼女と手を繋いだままだ。 「ねえ。男子と男子ってどう思った?」  ふと静かに尋ねられる。 「どう……って別に。特には」 「違和感ないの?」 「まあ、あるけど……眼福かな、くらい?」 「あぁ、ちっさいほうイケメンだったよね」 「え。高いほうもイケメンだったよ?」 「やだ、趣味悪くない?」 「え、嘘ほんと?」 「わたしは男子はイヤだな。固いからだキライ」 「え、そこ? そこから?」  思わずあたしが吹き出しても、彼女は笑わず繋いだ手に視線を落とした。確かめるように微かに指を動かす。 「わたしは、男子は、イヤだな」  そう呟き、目線だけを寄越してくる。心拍数が急上昇するその理由は、自問するまでもなかった。
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