オレには変換できないワードがある。

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「きりーつ、れーい」  号令のあとに、やる気のない「さようなら」がパラパラと零れ落ちる。 「北山ちゃん、今日も絶好調だね」  後ろの席から東野がボソッと言うから、思わず吹いてしまった。センセーの後ろ姿は、毎日寝癖でひどいのだ。 「西原んとこでこぎれいにしてもらったらいいのにさ」 「センセー来たら母さん緊張して耳切っちゃいそう」 「ははっ、マジで」 「上がり症。マジで」 「そうなの。西原と全然違うじゃん」 「え。そう?」 「オマエ緊張とかわかる?」 「わかるってなんだよ」  ブッとまた吹くと、カバンの支度を終えたサツキがやってきてニヤニヤと会話に入ってきた。 「えー、東野くんって知らないの? こいつの上がり症」  サツキは幼なじみだ。知らなくてもいいことまで知られていて、ちょっと困る。それなのにクラスも部活もおんなじとか、ほんと困る。 「悦ってさ、好きな子の前だと緊張しちゃってろくに喋れなくなるんだってば。もうカッチコチでさ」 「マジで」  サラッと受け流して笑ってくれると思った東野が異様な食いつきを見せたので、これはまずいと思った。冷や汗が出る。 「部室行こう。鍵誰か持ってる?」 「あ。オレ。昼休みに取ってきた」 「早く行こうぜ」  まだ喋り足りないオーラを醸し出しているサツキを放って教室を出ようとすると、誰かの肩とぶつかってしまった。 「わ、ごめんなさい」  すぐに謝ってオレを見上げてくる顔。やばい。喉がヒクついて声が出ない。 「あ、美南。どうしたの?」  固まっているオレの後ろから顔を覗かせたのは東野だ。彼の姿を認めた途端、尾永さんはわかりやすくパッと瞳を輝かせた。  わかってる、尾永さんは東野の彼女。東野はオレの親友。東野の彼女は尾永さん。わかってる。サルでもわかる、それくらい。 「東野くん。明日のことなんだけど」 「ああ、うん。決めとこ」  彼氏彼女の会話をして、東野がオレの目の前に握りこぶしをズイッと出してくる。 「西原、鍵。先行ってて」 「……おう」  鍵を落とす瞬間の、東野の目がやけに冷めていて気になった。まさか、気づいてないよな?  肩を並べて廊下で話し込むふたりを置いて歩き出す。と、あとから遠巻きにしていたサツキが追いかけてきた。 「東野くんってめっちゃ奥手らしいよ。奪っちゃえよ、悦」 「うっさい黙れ」  これは恋なんかじゃない、恋なんかじゃない。
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