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黒艶のあるさらさらの毛が、わたしの膝にパサリと広がる。
河原沿いの草地に腰を下ろしたわたしは、目をぱちくりと瞬かせてから、膝上にのしかかる者の顔をじとりと睨んだ。
「颯太……重い」
「それくらいいじゃないですか、梓。
どうせ減るものでもないじゃないですか。
寒い日が続く中、こんなに晴れたのは久し振りですし」
間延びしたような颯太の声は、まだ眠いと言っていて、寝かせてあげたいと思う反面、わたしにだって言い分はある。
「だからってわたしの膝使っちゃう?
ひなりん達が見てたら何言われるやら……」
「雛川さんは手芸部だからまだ学校ですよね。
そして梓は校外ランニングの途中、と。
ほら、大丈夫じゃないですか」
横を向いていた颯太は体をくるんと仰向けに向け、真っ直ぐにわたしの顔を見上げてくる。
寝そべりながら伸ばされた颯太の白い手指がわたしの髪の一端に触れる。
どくんと大きく跳ねる鼓動を聴かれる気がして、わたしは思わずしかめっ面になった。
「ゴミ、ついてる」
「! あ、ありがと」
「どういたしまして」
くすっと微笑を浮かべた彼はすぐにもわたしから手を離した。
颯太のその笑みに、わたしは自分の気持ちを見透かされているように感じて気恥ずかしくなった。
熱くなる顔を空にプイッと向けて誤魔化すと、颯太はそれ以上追及してくることなく、ただただ穏やかな時間が流れていく。
二月上旬の放課後、ぴかぴかに晴れた冬晴れの空から暖かな陽射しが射し込んでくる。
学校そばの河川敷にイーゼルを立たせ、絵を描く颯太――土屋颯太と出逢ったのは今年に入ってから。
国立美術大に在籍する彼は、日本画を専攻する芸術家の卵。
授業がない午後は決まってスケッチを取るという彼は、慣れ親しんできた神社からこの河原へと“ 引っ越し ”てきたばかり。
何でも、スケッチポイントに毎日のように訪れるようになったカップルに気を遣ったとかいう話だった。
「そうだ梓、今日は何時までここにいられますか?」
颯太は思い出したようにして不意に上体を起こした。
「五時くらい。
あまり遅くなると顧問に怒られる」
「なら、少し……進めさせて」
イーゼルを前にして立ち上がった颯太はまだ座ったままのわたしに手を差し出した。
「今日もモデルよろしく」
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