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シンと静まり返る緊張の瞬間。
腰を落として睨み合う視線に隙が生まれる瞬間を突き、ゴール下に待ち受ける守護神達の群れをカットインで切り抜ける。
リズムを刻んだドリブルと軽快なステップでディフェンスの間を縫うようにして足を踏み切り、ゴール前で放ったジャンプシュートは、綺麗なアーチを描いてバッグボードを叩いた。
そして、スラムジャクリムをクルクルと不安げに回転を繰り返した後、パサッと網を通り抜けたその時。
ホイッスルが試合終了を力強く伝え、割れんばかりの歓声が体育館内にこだました。
「キャアアアアア、梓せんぱーい!」
「梓、やった、やった!!」
「かっこいいーー!」
駆け寄ってくるチームメイト。
肩で息をつきながら額に浮かぶ玉汗を振り払うわたしの手にタオルとドリンクが手渡される。
応援席に向けて笑顔を向けると、何倍もの黄色い声援が一斉にわきあがり、そのあまりの音量に顔をしかめた。
女性らしさ、たおやかさ、儚さ。
そういった見た目を全て母親の胎内に忘れてきたんだと思う。
「梓せんぱぁい」「梓ー」
バレンタインが近いこの頃は校舎の至るところで呼び止められる。
わたしのトートバッグは愛らしくラッピングされたチョコレート菓子やクッキーなどの手作り品ばかりで賑わっていた。
可愛らしい造花で両端を留めたトリュフキャンディ。
苦めのビターで作られた大人の風味、ガトーショコラケーキ。
テンパリングしたチョコレートを流し込んだだけのお手軽カップチョコレートも、アラザンやオレンジピールといった一工夫しただけで、目にも鮮やかで、見た目にも楽しめる逸品に変わる。
女の子は、いつだって本気だ。
数日前のこの時期、彼女達は年に一度の女の子祭典を心行くまで楽しむ。
わたしは――というと、そんな彼女達の祭典前の試作品を片っ端から受け取る係。
よく言えばボーイッシュ、悪く言えば、女子力がない。
短い髪は、汗が張り付く感触が苦手という理由から伸ばすことを諦めた。
高い背丈は女の子特有の愛らしさからかけ離れ、レースやワンポイントリボンがあしらわれたソックスなどはとても無理だし、ピンクやビタミンカラーといった可愛い系の色みとはほど遠い寒色系女子のイメージが出来上がってしまっていた。
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