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――2月12日
今日も肌を刺すような寒さに見舞われながら、わたしはいつものようにジャージ姿で土手沿いを駆けていく。
まだ早朝ということもあってか、颯太は居ない。
前期で単位のほとんどを取得してしまったという大学生の彼は、この川沿いを陣取ってスケッチしている。
「はい」
朝練を終えて教室の席に鞄を下ろしたわたしの手に、可愛らしいリボンでラッピングされた袋がポンと置かれた。
見上げたそこには、友達の朱佳(しゅか)がいた。
艶のあるセミロングの髪にふわふわ緩いカールをかけ、学校規定の長さより少しばかり短い丈のスカートからはワンポイントのリボンがちょこんとあしらわれており、彼女の愛らしさを際立たせている。
彼女の笑顔には人を安心させる魔法がある。
「バレンタイン前だからさ、今日の朝は料理部異例の朝練だったのよ」
何となくクラス中がそわそわと浮き足立っているのは、なるほど、今年のバレンタインは土曜日。
想い人が学校にいる大多数の生徒たちの殆どが13日、明日が本番なのだろう。
朱佳から手渡されたお菓子はブラウニー。
「あーっ、梓ちゃんいいなあ!
私にもちょうだい、朱佳ちゃん」
甘い声を響かせ、朱佳の隣にスッと現れたのは、雛川杏。
小動物系の彼女のことは二人で『ひなりん』と呼んでいる。
ひなりんの差し出した手を無視して腕組みをする朱佳は、彼女に冷やかしの目を向ける。
「ひなりんにはカッコいい彼氏がいるでしょ~!
私も梓もフリーだから~。
ああどっかにカッコよくて優しくて、私を愛してくれる男は居ないのかしら!」
「あれぇ、でも梓ちゃんには気になってる人がいるんじゃ……?」
可愛い口はポロリと爆弾発言。
朱佳の顔付きでシークレットだったことに気付いたひなりんがごめん、と口パクを送ってきた。
手芸部のひなりんはわたしの幼馴染み。
朝練がない日はいつも彼女と登校している。
立て掛けたイーゼルを前に、じっと川の流れを眺めていた颯太を最初に見つけたのは、ひなりんだった。
そのことから、ひなりんにはコッソリと話をしていた。
そんな柄にもないわたしの恋愛事情など知りもしない朱佳は大きな瞳を細めてわたしの顔をひと睨みし、カァァと熱くなるわたしの顔をしっかりと確かめた。
「さあ、洗いざらい話して貰うわよ」
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