14人が本棚に入れています
本棚に追加
部活を終え、夕陽はあっという間に沈み、空の端に橙を残すだけ。
なりたての夜の気配にぶるりと震える。
首に巻いた千鳥格子のマフラーに鼻と口を埋もれさせながら帰り道を行くわたしのポケットがふと、振動を起こした。
ウインドブレーカーのポケットから引き抜いたスマートフォンの通知画面には、『土屋 颯太』の文字が躍っていた。
「そっ、颯太からだっ……!」
一気に顔が熱くなり、寒さもどこかへ吹き飛んでしまう気がするから不思議。
颯太は知らないだろうな。
颯太の存在が、こんなにわたしの心を動かすってこと。
――――――
『明日、学校が終わったら買い物に付き合ってくれませんか?』
――――――
そのたった一文が、わたしをどんなに喜ばせるか、きっと颯太は知らない。
明日は丁度、顧問が出張。
今年のバレンタインは土曜に訪れることから、学生はみな明日をXデーと定めている。
明日の部活は欠席者が続出に違いない。
そしてわたしも例に漏れず……。
――――――
『明日は部活がないから、いつもの場所に向かうね!』
――――――
ニマニマしてる。
今絶対わたしの顔はニマニマしてる。
あ、既読ついた……読んでくれたんだ。
たったそれだけのことなのに、リアルに繋がっている気がして……
今、この瞬間にも、颯太はわたしも同じようにスマホのline画面を開いているんだって思ったら……嬉しい。
スマホの画面をじっと眺めたままのわたしの脇を何人もの人が追い越していく。
――――――
『ありがとう、では明日よろしくお願いします』
――――――
たったそれだけの、短いメッセージは、わたしの心を上手にダメにする。
明日、よろしくお願いします
明日、よろしくお願いします……
頭の中で何度も何度もリフレインしていく颯太の言葉。
まるでデートのお誘いみたいな甘い響きが、わたしの胸を焦がしていった。
そこからの家に到着するまで、嬉しくなったわたしは、何年かぶりのスキップをして帰った。
最初のコメントを投稿しよう!