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――翌日、二月十三日
その日、わたしの心はいつになく慌てて、ソワソワドキドキが止まらなかった。
HR終了直後、鞄を手にしたわたしは一目散に昇降口へと滑り込んだ。
――――――
『いつもの場所で待っています。
急がなくていいから』
――――――
手元で震えたスマホをしっかりと握りしめて画面越しに微笑み、わたしは冬空の中を急ぎ足で進んだ。
白い息が舞い上がっては消えていく。
じきに汗ばんでくると、マフラーを掴んで首から外し、いつもの土手河原が見えてくる。
「急がなくていいって言ったのに」
顔を真っ赤にして息を乱すわたしにそう言った颯太は、笑っていた。
「急ぎ……たかったから」
部活がない平日の放課後の特別感、好きな人に逢える嬉しさなんて、颯太は分からないんだろうな。
そう思うと、ちょっぴり切ない。
制服の上に羽織ったキャメルのダッフルコートの隣に黒のロングコートが並んだ。
「では、行きましょうか」
先導する颯太の半歩後ろを付いていく。
景色は河原から人通りが多くなる繁華街へと変わっていく。
颯太の行きつけの画材店は駅を3つ越えた駅ナカにある。
「はい、これ切符」
学生や仕事帰りの人混みに紛れることなく、彼はわたしの手に四角いチケットを握らせた。
発券時刻は今日の朝になっていた。
わたしがもし来れなくなったらどうするつもりだったんだろう。
改札口前の人の波は颯太とわたしの間を引き裂いていく。
離れていく距離に焦って思わず伸ばした腕は、
「梓、こちらへ。
迷子になってしまうと困ります」
立ち止まり振り返った颯太の大きな手にがしっと掴まれた。
鼓動が跳ねて、見つめ合うこと数秒間。
立ち止まるわたしの視線は、颯太の眼差しに釘付けになる。
「行きましょうか……梓さえよければ、このままで」
顔が熱い。
「……い、いいよ。
はぐれると困るものね」
ああ、なんて可愛くない言い方なんだろう。
こんな時、可愛い女の子はどう言うのかな。見当もつかない。
それでも、繋いだ手のぬくもりがじんわりとわたしの心に伝わって、ささくれを癒してくれた。
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