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「え」
目の前でみるみる赤くなるイケメンの顔を直視できなくて、目を逸らした。
絶対りんごが伝染してる。
頬が熱い。
「ほら。いらないの」
「いっいるいるいる、ありがとうサク。ありがとう」
「うん」
差し出した紙袋をチカがつかんだのを確認してから、手を離した。
昨日の夜、万奈とつくったチョコレートのクッキー。
かわいくラッピングなんかもしてみた。
たらららったったったー!
サクのレベルがあがった!
サクの女子力が5あがった!
サクの乙女度が10あがった!
乙女サクさん、順調に成長中。
「あれ? これ……」
紙袋のなかを覗き込んだチカが声をあげる。
「ああ、うん。そっちは誕生日プレゼントね」
「サク……作ってくれたの?」
「うん、まあ」
目を逸らしたままで答えた。
誕生日プレゼントは、チカに教わったくせになかなか上達しなかったミサンガ。
こっそり練習を続けて、なんとか完成した力作だ。
オレの血と涙と汗と、それから鼻水くらいは染み込んでるかも。
まあ、いいじゃんそんくらい。
それ以上に愛が詰まってんだよ、少しくらいは目をつぶってよ。
「ありがと。サク」
唐突にチカの両腕に包まれて、息が止まりそうになる。
とくん、とくん。
とくん、とくん。
お互いの鼓動が伝わって、混ざりあって、少しずつ速度をあげていくのがわかった。
「おめでと、チカ。あの、ごはん……は?」
チカの肩口に貼りついた唇からは、くぐもった声しか出ない。
今夜はチカの部屋で、ふたりだけのささやかな誕生日パーティーだ。
ケーキとワインは買ってきた。
ほかに誰もいなければ、レジェンドのターゲットはオレだけだから、酒だって解禁。
ふたりで料理がしたいとチカが言ったから、シチューの材料も用意してある。
「順番バラバラじゃダメ?」
くそっ、耳許で喋るなよ。
反則だ。
「サク」
吐息混じりに名前を呼ばれるだけで、ゾクゾクする。
「また髪色変えた? 自分で染めたの? かわいくてしかたなくて、朝からずっと抱きしめたくて死にそうだった。もう我慢させないで」
バカ。
……そんなこと言われたら、オレのほうが我慢できないっつーの。
「バカチカ。野獣」
「なんでもいいよ」
笑いながらキスをしてくるから、歯が当たって吹き出した。
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