2月14日における男子的衝動

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「え」  目の前でみるみる赤くなるイケメンの顔を直視できなくて、目を逸らした。  絶対りんごが伝染してる。  頬が熱い。 「ほら。いらないの」 「いっいるいるいる、ありがとうサク。ありがとう」 「うん」  差し出した紙袋をチカがつかんだのを確認してから、手を離した。  昨日の夜、万奈とつくったチョコレートのクッキー。  かわいくラッピングなんかもしてみた。  たらららったったったー!  サクのレベルがあがった!  サクの女子力が5あがった!  サクの乙女度が10あがった!  乙女サクさん、順調に成長中。 「あれ? これ……」  紙袋のなかを覗き込んだチカが声をあげる。 「ああ、うん。そっちは誕生日プレゼントね」 「サク……作ってくれたの?」 「うん、まあ」  目を逸らしたままで答えた。  誕生日プレゼントは、チカに教わったくせになかなか上達しなかったミサンガ。  こっそり練習を続けて、なんとか完成した力作だ。  オレの血と涙と汗と、それから鼻水くらいは染み込んでるかも。  まあ、いいじゃんそんくらい。  それ以上に愛が詰まってんだよ、少しくらいは目をつぶってよ。 「ありがと。サク」  唐突にチカの両腕に包まれて、息が止まりそうになる。  とくん、とくん。  とくん、とくん。  お互いの鼓動が伝わって、混ざりあって、少しずつ速度をあげていくのがわかった。 「おめでと、チカ。あの、ごはん……は?」  チカの肩口に貼りついた唇からは、くぐもった声しか出ない。  今夜はチカの部屋で、ふたりだけのささやかな誕生日パーティーだ。  ケーキとワインは買ってきた。  ほかに誰もいなければ、レジェンドのターゲットはオレだけだから、酒だって解禁。  ふたりで料理がしたいとチカが言ったから、シチューの材料も用意してある。 「順番バラバラじゃダメ?」  くそっ、耳許で喋るなよ。  反則だ。 「サク」  吐息混じりに名前を呼ばれるだけで、ゾクゾクする。 「また髪色変えた? 自分で染めたの? かわいくてしかたなくて、朝からずっと抱きしめたくて死にそうだった。もう我慢させないで」  バカ。  ……そんなこと言われたら、オレのほうが我慢できないっつーの。   「バカチカ。野獣」 「なんでもいいよ」  笑いながらキスをしてくるから、歯が当たって吹き出した。  
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