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数日経ったが、たまたま難しい客は来ず、白井に話しかけなくても過ごせる状況だった。
それでも同じ職場なのだから、いつ何時、白井に相談しなくてはならないかも知れないと思うと、冬華の心は重く沈んだ状態から脱出できなかった。
そして翌日、とうとう、そんな日がきてしまった。
定時までに仕事がこなせなくて、残業になってしまったのだ。
気まずいことに、永峰は急用があって残業ができない状況にあり、職場には白井と冬華しか残っていなかったのだ。
冬華は焦った。
(早く終わらせなくては…。)
白井は仕事熱心で、ほぼ毎日、一人で残業している。
無言で、白井は冬華の元へ近づいて来た。
そして、ブラウスの襟元から手を入れ、胸を触ってきたのだ…。
(嫌です…やめて下さい…。)
冬華は必死に抵抗したが、男の力には到底、敵う筈もなかった。
「分かってるだろう、今日これから。」
「分かりません…。こんなの嫌です…。訴えます…。」
「君に出来るわけがない。」
そう言うと白井は、自分の席へと立ち去り、何事もなかったかのように、仕事を再開した。
冬華は動揺し、頭の中が真っ白になった…。
30分後、何とか仕事を片付けると、白井も同様に帰り支度を始めた。
「分かってるよね、逃げたら明日から出勤できないよ。」
「どうしてですか!」
精一杯、強がってみた冬華に白井は、淡々と話した。
「君の性格では訴えることなど出来ない。君は既に、僕を愛し始めている。」
「そんなこと有りません!訴えます!あなたのこと好きになる筈ないです!」
そう言った冬華の唇を白井が塞いだ。
冬華の目から、涙がこぼれた…。
冬華は白井の言う通り、徐々に白井に惹かれ始めていたのだった…。
さらに時間が過ぎ、二人はホテルにいた。
冬華は、もう抵抗せず、されるがままだった。
気持ちが通じ合うと、白井は優しく抱いてくれた。
ひとしきり愛し合った二人は、とても穏やかな気持ちだった。
「過ちで結ばれてしまったけど、あなたのこと嫌いになれなかった…。ずるい…。」
話し始めたのは、冬華の方だった。
「君は僕を好きになる、それが運命さ。」
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