0人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後、白井と二人でバーに来ていた。
白井はブランデーのロック、冬華はグラスホッパーを注文した。
「僕は来週、人事異動があるかも知れん。君がいるから部署変わりたくないな。異動したくないと思ったのは初めてだよ。」
「本当ですか?嘘でも嬉しい。」
「嘘じゃないさ。」
冬華は白井と居る時、それまで経験したことのない感情を覚えた。
愛情を受ける喜びが有りながら、同時に苦しさで胸が張り裂けそうな思いがする。
不倫というものは、経験してみないことには到底、理解し難い感情なのだろう。
啓斗もフリーな男ではなかったが、未婚者と既婚者という違いがある。
結婚という契約のもとに守られている女性への嫉妬心と罪悪感…それは、未婚者の恋人に対するものとは、やはり重みが違うのだった。
「…どうしたの?ぼんやりしてるね。」
白井に声をかけられて、ハッと我に返った。
(そうだ、私は今、愛する人とお酒を飲んでいるのだわ…。)
「ごめんなさい。ちょっと酔ったのかな。」
「まだ1杯だよ。空腹に飲むのが悪いんじゃないのか?何か頼もう。」
「はい。」
フライドポテトとトマト&モッツァレラサラダを注文した。
そして、いつものように、短い時間を大切に過ごす二人だった。
最初のコメントを投稿しよう!