第1章

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数日後、白井と二人でバーに来ていた。  白井はブランデーのロック、冬華はグラスホッパーを注文した。  「僕は来週、人事異動があるかも知れん。君がいるから部署変わりたくないな。異動したくないと思ったのは初めてだよ。」  「本当ですか?嘘でも嬉しい。」  「嘘じゃないさ。」  冬華は白井と居る時、それまで経験したことのない感情を覚えた。  愛情を受ける喜びが有りながら、同時に苦しさで胸が張り裂けそうな思いがする。  不倫というものは、経験してみないことには到底、理解し難い感情なのだろう。 啓斗もフリーな男ではなかったが、未婚者と既婚者という違いがある。 結婚という契約のもとに守られている女性への嫉妬心と罪悪感…それは、未婚者の恋人に対するものとは、やはり重みが違うのだった。 「…どうしたの?ぼんやりしてるね。」 白井に声をかけられて、ハッと我に返った。 (そうだ、私は今、愛する人とお酒を飲んでいるのだわ…。) 「ごめんなさい。ちょっと酔ったのかな。」 「まだ1杯だよ。空腹に飲むのが悪いんじゃないのか?何か頼もう。」 「はい。」 フライドポテトとトマト&モッツァレラサラダを注文した。 そして、いつものように、短い時間を大切に過ごす二人だった。
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